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サリンジャー「エズミに捧ぐ」

20110828 015


サリンジャーの短編集「ナイン・ストーリーズ」は
どの作品にも感心したが
感動したのは「エズミに捧ぐ」だった。

その感動の強さは不思議なほどで
どこにその秘密があるのか知りたい気持ちもあり
何度か読み直した。

3Bの法則というハリウッド的なテクニックがある。
美女(beauty)か動物(beast)か赤ちゃん(baby)を出せば
感動を引き起こしやすいというものだが
「エズミに捧ぐ」には子どもが出てきて
「baby」の法則に匹敵する効果を上げている。

第二次大戦のノルマンディ上陸作戦に参加したX曹長は
その体験で「神経衰弱」に苦しむ。

「微かに小止みなくぶつかりあう指」
「舌の先でちょっと押しただけでも歯茎から血が流れだす」
「不意に、何の予告もなしに、自分の精神が、いわば碇がきれて、頭上の網棚の上で揺れる荷物みたいに動揺する」

こんな心身の状態において、Xはナチのゲッペルスが書いた「未曾有の時代」という本を開く。
その見返しには本の持ち主である
ナチの下級官吏で38歳の未婚の女性の書き込みがある。

「おお、神よ、人生は地獄である」

Xはその書き込みの下に

「諸師よ、地獄とは何であるか? つらつら考えるに、愛する力を持たぬ苦しみが、それである、と、私はいいたい」

というドストエフスキーの言葉を書く。

そんなXにエズミからの小包が届いていて
壊れた腕時計と彼女からの手紙が入っている。
その手紙の末尾には
彼女の弟チャールズからXへのメッセージが記されている。

「こんにちは こんにちは こんにちは こんにちは こんにちは
こんにちは こんにちは こんにちは こんにちは こんにちは
こんにちは こんにちは こんにちは こんにちは こんにちは
アイとセップンをおくります チャルズ」

地獄からの救出体験
これがテーマだが
その書き方にはユーモアが浸透していて
読むのに負担はまったく感じない。

といっても、ユーモラスな調子は
途中でリアリスティックなものに変わり
最後にまた劇的な変化を見せる。

エズミはこんなことをいう。

「父に言われたんですけど、わたしには全然ユーモアのセンスがないんですって。ユーモアのセンスがないから人生に太刀打ちできないって、父は言うんです」

それに対して“私”は
「本当に苦境に立ち至ったとき、ユーモアの感覚では役に立たないと思う」と返す。

※引用はサリンジャー「ナイン・ストーリーズ」野崎孝訳より
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