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プルースト すべての時間の肯定

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がんで余命が短いと分かったとき
残された時間の使い方について
何度か考えた。

そのとき感じた欲求のひとつが
プルーストを読むことだった。

「失われた時を求めて」は長い作品で
読破するのがむづかしいといわれ
自分もやはり最初から最後まで読み通すことはできずに
気が向くとあちこちを拾い読みしていた。

ただ、そんな読書でも
プルーストの魅力ははっきり感じていたし
がん発覚後でも読みたいと思うほど
自分で意識していた以上に
その魅力を強く感じていたのだろう。

現在は、何日かに1度
少しずつ読んでいるだけだが
こちらの気持ちの準備ができていれば
最上の読書体験になる。

準備というのは
有効性と効率を求めない心の態勢に
なっているということで
たとえば

「私がうっとりしたのはアスパラガスのまえに立ったときだった。それらは、群青色とバラ色に染められ、穂先はモーヴ色と空色にうつすら染まりながら、畑の土がまだこびりついている根元へ行くにしたがつて─苗床の土の色によごれてはいるが─天の虹色のようにぼかされていた。」

ここでプルーストは
ホワイトアスパラの美しさに打たれている。

調べてはいないが
プルーストのこの描写は
マネの描いたアスパラガスに触発されたのかもしれない。

そうだとしても
この描写のつづきを読むと
プルーストの美の感受の質が
絵画の領域を超えていることが分かる。

「そのような天の色彩のニュアンスは、きれいな女性が面白半分に野菜に変身しているように思われ、その美女たちはおいしそうな、ひきしまった肉への変身によって、あかつきの生まれたばかりの色合い、虹の下描きのやうな色合い、青味を帶びた夕暮れの消えてゆくような色合いとなつて、貴重なエッセンスをのぞかせている」

ホワイトアスパラの瑞々しさが
女性の肉体に変身して
さらに、曙、虹、夕暮れという
天の色調の変化に一気に拡大されていく。

ここまで想像力を飛翔させたあとは
次のようにつづく。

「そのエッセンスは、私がアスパラガスを食べた晩は夜中ずっと私に作用して、変身の美女たちが、シェクスピアの夢幻劇みたいな詩的でばかばかしいファルスを演じているかのように、私のしびんを香水のびんに変えてしまうのだった」

アスパラガスを食べると
尿の臭いが変化するという事実を
変身した美女たちの働きに帰すのだが
その働き方をシェイクスピアの夢幻劇にたとえている。

このような表現は想像力の遊びに見えるかもしれないが
プルーストは生活の細部にも美を見出して
人生を隅々まで救い上げようとしたのだろうと思わせる。

がんで余命が限られれば
死を避けたいという本能が意識を引っ張り
有効性が高くて、時間的にも経済的にも
効率のよい治療法を求める生活になるが
それでも生活にはいろいろな時間があって
どの時間でも自分が十全に生きていられたらと思うと
プルーストの書き残したことは救いに感じられる。
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